急がば回れ!Public Education

 来年札幌で開催される第5回国際野生動物管理学術会議(IWMC*)に先立ち、去る8月9日(土)、札幌国際ビルにて5th IWMCプレシンポジウム 大型哺乳類と人間の境界線が開催されました。シンポでは、大型哺乳類の都市部への出没・侵入が近年大きな社会問題となってきていることを受け、「今求められる野生動物管理とは何か」が議論されました。

 まず基調講演として、カナダ・マニトバ大学のリック・ベイダック教授がマニトバ州におけるUrban deerやホッキョクグマと人間とのあつれきについて、住民の意識調査結果を交えてご紹介くださいました。その後、酪農学園大学の佐藤喜和教授が北海道のヒグマ管理の現状と課題について、同伊吾田宏正准教授が大型哺乳類の管理の担い手像についてお話しされました。

 これまでにも様々な場で取り上げられてきた言葉ではありますが、今回のプレシンポのキーワードのひとつは、ベイダック教授の講演に繰り返し出てきたPublic educationかと思います。マニトバ州チャーチル(ホッキョクグマの季節移動ルート上に位置する人口1万人ほどの町)では、ホッキョクグマとのあつれきを避けるためのルールが住民の中で徹底されており、ここまで全住民の意識を高めることができたのはやはり、public educationなのだということでした。州政府がホッキョクグマに関する学習機会をチャーチルの学校のカリキュラムとして定めているのです。この「カリキュラムに位置づける」というのが非常に重要なのではないでしょうか。野生動物の生態や野生動物との付き合い方についてきちんと体系的に学び、正しい理解のもと適切な対応をすることで、あつれきを減らすことができると思います。また、同時に、将来の野生動物管理の担い手も育っていくことでしょう。野生動物に関する教育を、日本も(都市域に限らず地方においても)早々に実現していくべきと考えます。教育の充実はあつれき対策として即効性のあるものではありませんが、中長期的に見て、もっとも効果的に野生動物管理を進めていくためのツールになるでしょう。

IMWCプレシンポ
写真:総合討論の様子。

*IWMC:International Wildlife Management Congress
数年に一度開催される、野生動物管理に関する国際的な学会大会。来年度開催される第5回IWMCはアメリカ野生動物学会(The Wildlife Society)と日本哺乳類学会(The Mammal Society of Japan)との共催。