トラップカメラの注意点

トラップカメラ(トレイルカメラ、自動撮影カメラ)は野生動物の調査や観察において非常に利点の多いアイテムです。

もともとトラップカメラは狩猟用に発展した道具であり、捕獲とは非常に相性が良い部分があります。

近年は動物の観察手法そのものとして、あるいは人を対象とした監視カメラとして、幅広く利用される場面が出てきました。

しかし当然、万能で完璧な道具は存在しません。

今回はトラップカメラを被害管理に使う場合、調査に使う場合、撮影データを使う場合の注意点をまとめてみようと思います。

野生動物に関する神話」でも触れましたが、人には思い込みがあり、道具を使用する際もそれに影響されるものです。

頭をまっさらにして考え、まとめてみましょう。

 

【基本的な性質と性能】

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① トラップカメラの基本

トラップカメラは基本的に赤外線センサー(つまり温度)によって動物を感知して撮影を開始し、記録媒体にその画像や映像と撮影時間を記録します。

このため例えば爬虫類のような、動物の体温と環境の温度に開きが少ない生物の場合はトリガーが落ちにくく(つまり撮影されにくく)、向いていません。

体サイズが小さな哺乳類等を対象とする場合も、撮影環境や設置方法、設定等に注意が必要です。

記録媒体と電源は、交換等の手間や流通量を考えれば、現時点では「SDあるいはmicroSD」と「単三電池(AA)」を使用しているものが良いでしょう。

近年は写真撮影あるいは動画撮影のいずれかを選択できる機種がほとんどです。

電池やSDの容量に問題が無ければ、基本的には行動を詳細に観察できる動画撮影を選択すべきだと思います。

トラップカメラは周囲が明るい環境下では可視光で撮影されますが、暗い状況ではフラッシュをたいて撮影されます。フラッシュの種類は概ね「普通のフラッシュ(可視光)」「赤外線(赤い可視光含む)」「赤外線(可視光ほぼ無し:Black Flash)」の3種類に分けられます。

被害管理、調査、捕獲等でトラップカメラを使う場合は、基本的に「可視光が出ない赤外線撮影(Black Flash)」を選択すべきです。

赤色光を感知できる野生動物もいますし、何よりBlack Flash以外では撮影が起こった事が人に気付かれやすく、盗難等のトラブルが発生しやすくなるからです。

現在は様々なトラップカメラが出ていますが、それぞれの機種で「赤外線センサーの感度」「赤外線センサーの感知エリア」「トリガースピード」「赤外線フラッシュの範囲や強さ」等が異なります。

野生動物の種類によってサイズや移動のスピード等が異なるため、状況と撮影生物種によって、ある機種ではきれいに撮影されるが別の機種ではうまく撮れない撮影が多くなる、というような事が起こり得ます。

これはカメラの良し悪しというよりは、撮影対象種及び撮影環境がその機種に合うか合わないかという問題です。

もちろん、こういった細かな性能等は公にされていない場合が多く、示されていても仕様通りでない場合もありますし、一度使ってみてから機種の特性に合わせて設置環境等を調整する部分が大きくなるものだと考えておいたほうが良いでしょう。

このように機種によって性能が異なるため、調査研究では機種や型式をまたいだ撮影データの比較が基本的にはできません

② 設定など

近年のトラップカメラは、設定の幅が非常に大きくとられたものが多くなっています。

「赤外線センサー感度」「赤外線フラッシュの強さ」「動画の撮影時間」「撮影のインターバル」「画質」などなど、どうしてよいのか迷うような設定項目も多くなってきました。

センサー感度やフラッシュの強さは設置環境に合わせて使ってみてから調整すれば良いと思いますが、調査等で使う場合には注意が必要です(データを比較する場合について後述します)。

その他の設定については、例えばインターバル(撮影と撮影の間に設定できる空白時間)は短く、撮影時間は長く、画質は高画質に越したことはありませんが、SDの容量や電池の消耗具合との兼ね合いを考えつつ、適度な条件を探して設定することになると思います。

SDと電池を1か月程度で交換するような頻度であれば、30秒程度の最高画質でインターバルを最短にしていても、多くの機種では電池切れやSDカード容量不足が起こることはあまりないと思います。

ただし設置環境を間違うと、主に空撃ち(動物以外の物に反応して撮影する現象)によって問題が生じる場合がありますし、餌付けをするような場合では動物の滞在時間が飛躍的に伸びてデータがあふれる場合があります。

③ 特殊な機能

近年は携帯電話の電波を使ってリアルタイムで撮影情報を送るような機種も出てきました。

最終的にデータを集計する必要のある調査や研究では、電池の消耗が激しくなるデメリットを勘案するとあまり良い選択肢ではありませんが、忍び猟のような「観察対象が今その地点にいるかどうか」という情報が非常に貴重となる状況では有用な機能です。

ソーラーパネルで電池の消耗を抑えるような外付けのオプションも出ています。

ただし、異質で大きな外観となるため、撮影対象となる動物への影響を気にしなくてはなりません。

影響を考えなくても良い被害管理等の場面では有用となるでしょう。

その他にも、パノラマ撮影が可能なトレイルカメラや、タイムラプス機能を持ったトレイルカメラなど、非常に多くの機能と機種が出現しています。

例えば観察したい地点の周辺環境の経時的な変化と野生動物の出現のような、より広い視野での調査等にもトラップカメラが使えるようになってきています。

 

 

【使用上の注意点】

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① 購入時の注意点

トラップカメラは初期不良がある場合があります。

野外にかけてしまうと長い設置期間の後に故障に気付くことになるため、購入後は1日室内に設置してみて撮影状況を確かめ、不良が無いか確認したほうが良いでしょう。

動画撮影での運用時には、トラップカメラとSDカードとの相性が悪くて不具合が起こることもあります。

SDカードの書き込みスピード等に問題があると思われますが、SDに動画ファイルが残っていない場合や、ファイルが破損している場合があります。

特に安価なSDカードを大量に買おうとする前には1枚購入し、使用するトラップカメラの最もデータ転送負荷がかかる条件で使ってみて、動作を確認したほうが良いでしょう。

② 故障の形

トラップカメラは屋外に設置するものであるため、さまざまな故障がつきものです。

トラップカメラ内部に液晶画面がついているものでは、その液晶関連の故障にとても多く接することになると思います。

液晶が見えなくなると設定等が確認できずほぼ使えなくなってしまいますので、購入時は注意が必要です。

設定時間が大きくずれる故障も比較的多く起こります。

一度激しく時間がずれたものは再発することが多くなりますので、調査等の目的で使用している場合はカメラ自体を取り換えたほうが良いでしょう。

夜間の撮影なのに赤外線フラッシュが飛んでおらず真っ暗な映像になっていた場合は、明暗センサーか赤外線フラッシュ、あるいは電池の接続部分に問題があるかも知れません。

撮影そのものが極端に少なくなった場合や、極端に空撃ちが増えた場合は、赤外線センサーに問題があるかも知れません。

トラップカメラはどこかで壊れるものです。

最も重要なのはもちろん壊さないような運用で、その次に重要なのが壊れた時にすぐに気付く運用です。

 

 

【設置やメンテに際しての注意点】

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① 許可等

トラップカメラを自分の所有地以外に設置する場合は、もちろん許可が必要です。

あるいは自分の所有地であっても、その所有地以外が撮影範囲に入る設置方法になっていた場合は許可が必要になるかも知れません。

例えば公共の場所などでは、トラップカメラ設置の許可を得ている場合であっても、「盗撮だ」と言われた際に反論できるようカメラ設置地点に掲示をかけておくことも必要です。

掲示は別の意味でも重要です。

トラップカメラは盗難のリスクがあるのですが、近年のトラップカメラにはシリアルナンバーが記録されているので、転売や自分が利用する目的での盗難は少なくなってきていると思います。

実際には、例えば不法投棄や盗掘などの犯罪に関連した理由で盗難が発生する場面が多くなるのではないかと思います。

「まずいものを撮られた」と考えた人は、トラップカメラに鍵がかかっていても工具等を持ってきて強引にカメラを破壊して持ち去ってしまいます。

このため、相手が不意に撮影される状況を作らないように分かりやすい所に掲示をかけておくことが、山林での盗難予防の点では効果的だと考えられるからです。

防護柵と同様、トラップカメラを物理的に守ることも重要なのですが、心理的に守る考え方も重要になります。

② 設置時の注意点

トラップカメラのほとんどは防水仕様になっていますが、水に浸かり続けて耐えられるものではありません。

このため設置環境には注意が必要です。

例えば、木に設置する場合は雨水が溜まる位置ではないか、水たまりや流水に浸かる高さではないか、積雪時に埋まる位置ではないか等に注意しましょう。

設置する木が枯れ木ではないか、設置する部位は木が成長しやすい位置ではないか、風等で動揺する位置ではないか、風でゆれて当たる枝が周りに無いか等も確認しましょう。

トラップカメラは赤外線センサーで作動するものであるため、もちろん画角に太陽が入る形で設置してはいけません。

その他にも例えば画角の中に水面や雪面を介して太陽が映りこむと空撃ちが増えてしまいますので注意しましょう。

無駄な撮影によって確認の作業量が増え、電池やSDも消耗してしまいます。

空撃ちを増やす要因として他に多く接するのは、センサーの前で揺れる草木です。

カメラに近い位置で写りこみそうな草や枝があれば、除去するかカメラの位置をずらしましょう。

特に春から夏にかけては草が伸びてきますので、その頃をイメージした注意が必要です。

やや特殊な例かも知れませんが、狭い範囲に複数のトラップカメラを設置する際も注意が必要です。

別のトラップカメラの赤外線フラッシュに反応して空撃ちが発生する場合があります。

トラップカメラは目的によって位置や角度を決める場合もありますが、特別な制限がなければ人の目線と同じくらいの高さを維持しましょう。

低すぎると動物の鼻が届き、警戒されて行動が変化する場合や、興味を持たれて壊される場合があります。

イノシシやシカの背こすりに利用され、牙や角があたって破損する場合もあります。

トラップカメラを調査や研究に用いる場合、基本的に視野を動かしてはいけません

電池やSDを交換する際にフタの開閉や電池SDの抜き差しに問題が生じない設置環境であるかを、設置時に確認しておきましょう。

また、急な斜面や足場の不安定な場所、川や水たまりの上などに設置しないように注意しましょう。

危険であることに加え、交換の際に電池やSDを落としてしまうと紛失・破損する可能性が高くなります。

画角の調整については同じトラップカメラを使っていると慣れてくるものですが、必要であればトラップカメラの前に立っていくつか撮影しましょう。

SDカードをタブレットやデジタルカメラ等に差せば撮れた映像を確認できます。

夜間の赤外線フラッシュの範囲についてははなかなかその場で確認できないため、いずれにせよ設置後に1回は調整するスケジュールを組んでおいたほうが良いでしょう。

③ 電池SD交換時の注意点

トラップカメラの電池やSDを交換する場合、基本的に雨の日は避けたほうが良いです。

傘を差していても開閉部のパッキンについた水滴等が内部に侵入し湿気がこもってしまいます。

これによってサビや故障、内部からのレンズの曇り等が起こりますので、交換は晴れた日に実施するようにしましょう。

トラップカメラによっては、外部からの端子接続のためのフタがついています。

これが開いていたり緩くなっていたりすると、そこから内部にアリ等が侵入して故障の原因となるため、交換時には十分に確認しましょう。

トラップカメラの前面にはレンズやセンサーがついていますが、この凹凸にクモなどが巣をかけてしまうこともあります。

撮影に影響しますので、交換時に確認し除去しましょう。

電池やSDの交換時に最も多いミスは、スイッチの入れ忘れや電池SD交換忘れです。

複数のカメラの電池SD交換をする際に起こる最も面倒なミスは、使用済みのSDを別のトラップカメラに挿入してしまうものです。

可能であれば複数人で交換に当たって相互に確認し、交換前後のSDセットを分けたりナンバリングしたりして十分に準備しましょう。

電池SD交換時には使用していたSDカードをデジタルカメラ等に差して、撮影に問題が生じていないかをその場で確認したほうが良いでしょう。

 

 

【誤解、誤用、データの扱い】

トラップカメラで撮影された映像は、想像上の反応ではなく事実として起こった現象です。

このため非常に説得力があるのですが、その反面、飛躍しすぎた解釈であったり、集計データを基にした推測の部分も科学的なデータのように用いられてしまうことが起きやすいものです。

特に調査研究の場面での撮影された映像やデータの解釈について、注意点をまとめます。

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① 撮影された現象の意味

トラップカメラで動物が撮影された場合、それらは基本的に全て「画角内を移動しているという行動」を捉えていることになります。

それ以上でもそれ以下でもありません。

特に写真撮影では、野生動物がそこで何をしているのか詳細には分かりません。

もし「移動」以上の「行動の中身」を見たいのであれば、カメラ設置の狙いをしっかりと考えた上での動画撮影が必要になります。

特定の環境を狙ってかけた撮影については「動物の利用」として見なせる場合があります。

例えば、ヌタ場やエサ場をカメラの画角内に入れた動画撮影の場合は、撮影された動画の中に「泥浴び」や「探餌・採餌」といった行動があるかどうか、頻度がどれくらいかを観察する事ができます。

あるいは防護柵の内側に設置されたカメラに野生動物が撮影されている場合は「柵内への侵入」という行動として見る事もできます。

このように「どのような行動を探すのか」「どのように特定の行動と見なすのか」について、しっかりと計画を持って設置することが重要です。

例えば、ある人工林でシカの撮影が10月に多いからといって10月に食害が多いことにはなりません。

繁殖に関連した移動が増加した結果として撮影回数が増えているかも知れないからです。

「何を評価したいのか」と「撮影結果(データ)」が正しくリンクしていなければデータに意味はありません。

この「撮影回数」と「行動の解釈」の関係の部分が、現状では精査されずに非常に曖昧に扱われている場面が多くなってきています。

ただの撮影回数に「特定の行動」まで示す意味は無いため、撮影環境の設定、撮影条件の設計、撮影後の分析方法までしっかりと考えることが必要です。

「撮影されないこと」に対する解釈も重要です。

例えばトラップカメラを山林に設置すれば、ほとんどの場合で夜間に多くの撮影が起こります。

しかしもちろん、昼間に映らないからといって昼の間周辺から野生動物が消え去っているわけではありません。

同様に、適切な方法で設置されたトラップカメラに野生動物が撮影されないからといって、「その野生動物がいない」ということにはなりません。

獣道などに設置した場合では、山の中には無数の獣道がありますから、撮影されないのは隣の移動ルートを使っているだけである可能性もあります。

映らないことを「“周辺”にいないこと」と拡大して解釈しないよう注意しましょう。

「撮影されない」のは「判別可能な撮影ができる条件で赤外線センサーの感知範囲をその動物が移動していない」という結果です。

トラップカメラがカバーしているのは非常に狭い面積の視野(しかも撮影範囲ではなくセンサーの感知範囲)だけであることを忘れてはいけません。

野生動物は「線」で移動しているものであり、その移動ルートが撮影範囲にトラップされなければ撮影は起こりません。

② データ比較の基本的な注意点

トラップカメラでデータを集めると、比較をしたり、集計データを加工して利用したりしたくなるものですが、これには細心の注意が必要です。

まず、動物種間の撮影回数を単純に比較して「どちらの“個体数”が多いか」というような議論をすることはできません。

動物種によって体サイズや移動の様式及び頻度が異なり、「撮影されやすさ」が異なるからです。

言い換えれば、生物Aと生物Bが同じ個体数いても設置環境等によって撮影頻度や撮影回数が大きく変わる可能性がある、ということです。

同じ動物種の中であっても「幼獣と成獣、あるいは雌雄の撮影回数を基にして、周辺の個体群の齢構成を調べる」というようなことは、基本的にはできません。

「撮影結果としてこうだった」とは言えますが、「背景の齢構成を反映している」とは見なせません。

成長段階や雌雄によって行動は異なり、体サイズも異なるからです。

さらに言えば、周辺に同じ生物が同じ個体数いても、設置環境によって撮影頻度や撮影回数が大きく変わる可能性すらあります。

このように、カメラ1台分のデータの中であれこれと比較しようとすると正確性の面で無理が出てきます。

カメラ1台のみを使った場合は、長期間かけてみて月別での出現回数及び行動を比較する形や、対策実施の前後での出現状況を比較するようなデータ分析がメインになります。

③ 複数のカメラを用いたデータ比較

複数台のトラップカメラを設置してそれぞれで比較する際はもう少し複雑です。

比較をする際は「比較したい項目1つ」以外の要因をそろえることが必要になります。

「撮れるだろうという場所に適当にかけて後から比較する中身を探す」というような設計を多く見かけるのですが、これは基本的に誤りです。

「ある生物種がそのエリアにいるか(生息確認)」という最も基本的な調査内容でしか、このようなアバウトな方法は使えません。

比較の際は、まず調査に用いるトラップカメラは同じ機種で統一し、撮影時の設定や撮影条件を同じにしておくことが前提になります。

別の設置位置のトラップカメラで異なる年度のデータを比較する事や、同じ年度であっても異なる撮影時期の撮影を比較するようなことはできませんので(影響する因子が「設置場所」と「年度・季節」の二つになってしまう)、基本的には同一期間の撮影について比較することになります。

非常に難しいのがトラップカメラの設置環境です。

先ほど、同じ個体数であっても種差、成長の段階、雌雄によって撮影頻度が変わる可能性がある、と述べました。

実はさらに言えば、周辺に同じ生物が全く同じ構成で同じ個体数いた場合でも、カメラの設置環境を少し変えれば撮影頻度や撮影回数が大きく変わる可能性があります。

撮影対象の個体数や構成とは別に、植生、標高、周辺の地形、水域との関係、周辺の人の利用状況等の個別の条件で撮影結果は大きく変動します。

実は、カメラ設置地点の微細な要素が撮影結果に大きく影響してしまうものなのです。

しかし、この部分はなかなか条件をそろえられません。

同じ木に同じ時期カメラを設置したとしても、高さ、角度、方向で結果は違うものになるでしょう。

例えば「獣道にかける」と決めている場合でも、獣道の上にかけるのか、獣道に対して並行にかけるのか垂直にかけるのか、獣道までの距離はどの程度か、獣道そのものがどういった要素を持っているか(上りか水平か尾根か谷か南斜面か北斜面か交差点か一番端か等々)で撮影回数や観察されやすい行動も変化するでしょう。

比較したい項目を除いた他の条件について全く同じ地点を見つけることはなかなかできません。

このため、調査や研究でトラップカメラを用いる場合は「何を比較したいのか」をしっかりと想定した上で、カメラの設置台数を増やすことによって「設置環境のバラツキ」を緩和するアプローチが必要になります。

例えば「A山とB山のシカの生息状況を比較したい」というテーマがあった場合は、A山とB山の複数の環境(植生・標高・水域周辺等)にそれぞれ複数の同設定カメラを設置しA山とB山の平均を取って比較する、という形に近くなるかも知れません。

カメラの台数が十分にある場合は、特異な撮影結果になった数台分のカメラを外れ値として除外する(もちろん調査の設計時にあらかじめそうすると決めておく)ような考え方もあるかも知れません。

重要なのは、少数のカメラをあるエリアやある要素の代表として使わないことです。

1台のトラップカメラの撮影データは、設置地点が持つ多くの構成要素に影響された結果であるため、こちらが比較したい対象として設定する要素以外のものに強く影響を受けている可能性を排除できません。

GISや多変量解析を用いる場合でも、少数のカメラが個別の要素の代表とならないよう配慮しつつサンプル数(各要素にかかるカメラの台数)を考える必要があります。

④ 比較以外の形

調査研究においてトラップカメラを地点やエリアの「比較」に用いる場合は、入念な現地調査を前提とした十分な設置環境の選定か、一つの要素に対して多くの台数をあてる調査形式が必要になります。

特に研究では一般化できるデータが重宝されるため、どこでも使えるデータかのように表現しようとする傾向が強いのですが、トラップカメラの撮影データは基本的には「特殊な条件セットでの一例」であり、厳密に設計したものでなければ他地域に簡単に当てはめられるものではありません

このため調査であっても研究であっても、知りたいテーマをしっかりと絞った形でトラップカメラを用いた調査をするほうが現実的です。

例えば「特定の市町村の低標高地の竹林におけるイノシシの利用形態の季節変化」や「特定の市町村の農地近傍の林地と草地におけるシカの出現傾向の違い」というように、「何が知りたいか」あるいは「何が分かれば対策が改善できるか」をしっかりと分析した上で調査のターゲットを明確化しましょう。

他地域で調査されたトラップカメラの撮影結果を引用する場合も、「どのような設置環境でかけたカメラか」という条件付きでのデータとなることに注意が必要です。

カメラのデータは「どのような設置環境・設定での結果か」という情報とセットでなければ、「何を構成要素としてその結果が得られたのか」が考察できず、意味がありません。

⑤ 生物に全く影響を与えない?

トラップカメラには誤解が多いのですが、その一つが「生物に影響を与えない調査方法である」というものです。

「人による目視観察調査に比べて生物に影響を与えにくい」と言えば事実だと思いますが、生物の行動に全く影響を与えないわけではありません

Black Flashでないトレイルカメラでは、赤色光が見えている野生動物に影響があります。

実はBlack Flashでもわずかに赤色光が見えるため、視力の良い生物によってはBlack Flashでも影響があるかも知れません。

トレイルカメラ自体の臭い、電池やSD交換時に残った人の臭いなどによって動物の出現に影響が出ることもあるでしょう。

トレイルカメラの機種によっては、昼夜の撮影でレンズのフィルターを交換するものがあり、そのフィルター交換時に発生する「カタッ」という音に反応する生物もいるかも知れません。

こういった野生動物に影響を与えかねない光、臭い、音に対して、野生動物は時間の経過と共に慣れていくため、調査期間内で反応が変化していく可能性もあります。

これらの影響はトレイルカメラを使っている間は避けられないものですので、こういった反応があることを見込んで結果を考察する必要があります。

このため撮影データを基に何かを論ずる場合は、トラップカメラの設置日、電池やSDの交換日は明らかにしたほうが良いでしょう。

トラップカメラの撮影(感知)面積と調査対象となる山林面積との関係から個体数等を調べるような試みもよく考案されますが、撮影(感知)面積や調査対象種の撮影地点を正確に把握しようと画角の中に人工的な印をつける際は注意が必要です。

その印によって調査対象の行動に影響を与えるかも知れないからです。

⑥ 種判別

トラップカメラは、設置や撮影環境以外にも注意点があります。

それが種判別や行動の判別です。

トラップカメラの映像に慣れてくると、赤外線撮影で目の光だけが見えている状態でも、両目の間隔や動きで動物種や行動が判別できる場合が出てきます。

あるいは、動物がすぐに画角の外に出てしまった映像や、体の一部のみが映った映像でも判別できるようになります。

ここにもバイアスが生じる可能性があります。

例えば、多くの人が判別に関わるような調査・研究では種判別等の正確性にバラツキが生じる可能性に配慮しなければなりません。

あるいは一人で判別している場合でも、個人の習熟度が上がることによって判別の正確性が変化していきます。

私自身も、自分が過去に誤って判別した映像や判別できなかった映像を見返せば「昔は下手だったな」と感じます。

重要なのは「判別の基準」を明確化することです。

「目の光だけでの判別は”不明”として扱う」や「識別ポイントが映っているファイルのみ判別の対象とする」というような基準を設け、客観的な(観察者の間で意見が割れないレベルの)ラインを保つ仕組みがあるべきでしょう。

基準から弾かれて「不明」扱いとなった映像を複数の観察者で確認する段階を設けても良いかも知れません。

判別についてもう一点問題となるのが、昼の撮影と夜の撮影の判別難易度の差です。

昼間の撮影は遠くまで鮮明で色も付いた映像ばかりですが、夜間の撮影はフラッシュが届く範囲の白黒の映像です。

このため、判別の難易度に大きな差が生じます。

昼間では確実に判別できる位置・生物・行動が、夜間では難しいという場合があります。

このため厳密には「夜間の出現頻度と昼間の出現頻度」というような、データを夜と昼に分けた形での比較ができません

もしそういった比較をしたい場合は、昼夜を問わず確実に判別できる範囲のみを画角に入れる等の設計が必要になります。

こういった点も注意する必要があるでしょう。

 

近年は研究に限らず、調査であっても管理事業であっても「科学性」がとても重要視されるようになりました。

しかしその「科学性とは何か」という認識があまり育っていません。

トラップカメラは「科学的な道具」ではありません。

トラップカメラは数多のツールの一つに過ぎません。

そもそも「科学的な道具」というものは存在しません。

「科学性」が宿るのは道具ではなく、個別の手法でもなく、「調査目的とデータ収集手法をいかに接近させるか、感覚的・希望的な考察のような不純物をどのように除去するか」を突き詰めた「調査の設計」です。

つまり「ある因果関係を明らかにするために、その道具の使い方が正しいかどうか」に向き合う姿勢が「科学性」なのです。

トラップカメラはとても便利な道具なのですが、使い方を誤ればやはり”神話”を作ってしまいます。

十分に注意しましょう。