カラスから考える野生動物へ餌を与えることとは

201510_カラス写真 餌を与えるというと、どのような場面をイメージされるでしょうか。動物園にいるサルやキリンへ与える、池のコイやフナやカモへ与える…などが思いつきます。では、「カラスがゴミを漁っている」のは、餌を与えると言えるでしょうか。

 餌を与える(給餌)という行為は、意図的に与えている場合と、非意図的に与えてしまっている場合の大きく二つに分けられます。どちらの行為もそれまで人為的な餌を食べていなかった野生動物が、人から与えられた餌を食べることを覚えてしまうことによって、様々な影響が生じてきます。

 ここでは対象を鳥類に絞って話をしたいと思います。まずは意図的な給餌についてです。与えている本人が意識している例で、庭に餌台を置いてやってくる野鳥へ餌を与えることや、公園のハトや湖のハクチョウ・カモへパンを与えることなどが該当します。与えたい理由として、自分が与えた餌を食べてくれることが楽しい、寒い冬で餌が少ないから助けたいということなどが挙げられます。

 給餌という行為は、彼らの行動に変化を起こすことは明らかで、本来は避けるべき行為ですが、それでも給餌せざるを得ないケースもあります。わかりやすいのは、数が少なくなった種を保護するために給餌するケースで、タンチョウの例が挙げられます。タンチョウは一時、絶滅の危機に瀕していましたが、給餌のおかげでその危機を脱することができました。ただし、給餌をした弊害もあります。それは、タンチョウが冬を越す手段として人間の給餌に頼り過ぎるようになってしまったことです。タンチョウの個体数は1500羽を超えており、これだけの数を維持するにはある程度の給餌は必要だとされていますが、タンチョウ自身でもっと餌を捕るようになって適度に分散しなければいけないと考えられています。給餌場への個体の集中は感染症が蔓延する恐れがあり、一挙に全滅することもありえるからです。現在、官民一体となってタンチョウを分散させるための様々な解決策が行われています。

 タンチョウの例は絶滅回避という観点から必要となった給餌の一例です。他にも、日本で増えすぎてしまったシカの個体数を管理する上で、効率よく捕獲するため意図的に給餌を行うこともありますが、ここでは割愛させて頂きます。

 以上のような理由があるなら給餌も必要だと言えますが、ただ楽しいからという理由で餌を与えることは野生動物にとって良いことはありません。餌を与えることで、人間と野生動物との間の適切な距離感が失われてしまいます。水鳥への給餌は、彼らの排泄物が人間に触れる機会を増やしますし、餌を手に持っていた人がクチバシで突かれた事例もあります。人間の給餌に頼ると、生活パターンが変わるかもしれません。また、給餌によって川や池の水質が悪化する可能性もあります。

 このように意図的な給餌には様々な影響がありますが、非意図的な給餌はどうでしょうか。わかりやすい事例が、カラスがゴミを漁ることでしょう。ゴミを荒らされた人は、カラスが「勝手に」漁ったと思いがちですが、意図しなくても餌を食べられてしまえばそれは結果的に給餌となるのです。そして、非意図的な給餌でも意図的な給餌と同様の問題が生じます。
 カラスの例でいえば、人間が適切にゴミの管理をしていれば、カラスもゴミを漁ることはできません。カラスは町中にまんべんなくいるのではなく、餌のある場所に集中します。ゴミの管理が徹底されている地域には居つきません。
 野生動物と共に生活していくには、人間も努力することが必要です。まずはご家庭の生ごみの出し方から考えてみてはいかがでしょうか。