「公開シンポジウム:野生動物管理のリーダーをどう育てるか」に参加して思ったこと

201607_野生動物管理のリーダーをどう育てるかポスター 巷では、人材育成の御旗の下、鳥獣関連の研修や講座、スクールがひしめいている。その実施主体も、行政や民間、大学などの教育機関と多彩である。しかし、未だに鳥獣害が収束していないところを見れば、これら事業は効果的に機能しているとは言えない。そのため本シンポジウムは、「野生動物管理に必要なモニタリング、計画・施策・評価を主体的且つ継続的に判断できるリーダーを育成するための教育プログラムを提供し、現場で活躍できる体制を構築するために何が必要なのか?」についての議論と情報共有を目的に開催された。

 まず明確化されたのは、鳥獣行政や被害対策等の現場において、基礎的な知識や技術、判断力を有する人材が、実質的に不在の状況にある点である。鳥獣法が改正されるたびに、人材の「育成」のみならず「配置」や「配置の公表」等が付帯決議として記されてきた。しかし問題は、最初の講演で赤坂氏が強調したように、これが実質化されていない点である。本来、付帯決議は「行政の責任当局としての立場からこれを尊重すべき」とされているためである。加えて、育成に関わる先進的な取り組みは、国よりもむしろ地方や大学で行われている現状が指摘された。以降に続く4つの講演は、それら地方や大学における活動やポリシー等の紹介であった。

 更に、講演ならびにパネルディスカッションを通じて示されたのは、人材に求められる役割や活躍する職域等の多様性である。たとえば、役割としては保護管理のコーディネーターや現場での指導員、捕獲技術者等が、職域としては行政職員や民間企業の社員、ボランティア等が挙げられた。その上で、これらの多様性が未整理なまま、「ごった煮」状態で担い手論や人材論が展開されているとの問題が浮き彫りにされた。「ごった煮」ゆえ、多様な役割や職域間の関連性や連続性が整理されておらず、各育成事業間に通すべき縦串と横串が整理されていない・・・。この系統性の欠落こそが、冒頭に述べた「効果的に機能しているとは言えない」ことの最たる理由と言えるであろう。

 では、この「ごった煮」状態から脱却するには、どうすれば良いのであろうか?

 まずは、野生動物管理の担い手の役割や職域等の整理と明確化である。その上で、役割や職域ごとに育成すべき人材像を明確化し、それを念頭に置く系統的な教育カリキュラムを組み上げることである。そして何より重要なのが、育成した人材を配置するポストと待遇の確保である。これは、鳥獣法改正のたびに付帯決議とされてきた「人材の配置」に他ならない。

 率直に言おう。いま本当に求められるのは、捕獲数の増加や捕獲従事者の増加を目論む近視眼的な施策ではない。税金をつぎ込むべきは、系統的な教育システムの確立と実質化ならびに人材配置の基盤となるポストの創設と待遇の改善なのである。全国に蔓延している「野生動物対策における使い捨て的な雇用システム」が残る限りは、決して優秀な人材は育たない。