冬期の猪鹿猟の地域性*

 今回はこれまでにお世話になったことのある、ふたつの地域で経験した冬期のイノシシ・シカ猟の様子について簡単にご紹介します。

 ひとつめは、冬期は1メートル以上の積雪がある山間の地域です。
 人家や田畑から車で5分程林道を奥へ進んだ先、いわば農村の裏山で猟を行っています。猟の形態は、数人から10人程度が勢子と待手に半分ずつ分かれて山に入る巻狩り(追い込み猟)のほか、併せて猟犬を使う方法、一人で山に入り前日の足跡からイノシシのねぐらを探す方法など様々です。倒した獲物は速やかに内臓を抜き、川に沈めて血抜きしたのち、寒い作業場に数日間吊るしてエージングしてから解体していました。

 狩猟にとって降雪は多くのメリットがあります。

雪上に残ったイノシシのねぐらの跡

 まず、下草が倒伏して見通しが良くなり、歩きやすくなります。白い雪を背景にすると、シカやイノシシの姿が見やすくなります。(雪影に紛れて逆に見にくくなることもあります。)足跡がしっかり残りますので後を追うのも待ちをかけるのも簡単です。足跡の新鮮さは雪の解け具合や新雪の被り具合から判断します。雪が多い日には、イノシシが雪に脇腹の跡を茶色く残しながら除雪車のように綺麗な一本道
を作って行ってくれていました。
 雪が降って大変なことは、まず何といっても寒いことです。待場に入り何時間も一カ所に座って居ても凍えないよう、防寒服やカイロだけでなく防寒長靴や尻敷なども整えます。積雪が多い日には山に入るのさえ大変なこともあります。新雪でカンジキが効かず、胸まで雪に埋もれながら少しずつ斜面を登ったりします。積雪が多く車が林道に入れない時はスノーモービルが大活躍します。

 ふたつめの地域は、冬も温暖で果樹園が斜面を彩る里山です。
 果樹園や竹林、太陽光発電パネル、そしてゴルフ場などが周囲を取り巻く地域で猟が行われています。人家や畑の間の生活道路を車で移動した後、徒歩で5秒から10分ほどで各待場に到着します。待場のすぐ近くを車が通ったり、果樹園境のフェンスを背にして待場とすることもあります。猟場が人里に囲まれていることや猟師人口が比較的多いためか銃猟は巻狩りのみで、複数の猟犬を用いた猟が行われています。10人から20人いる猟師の大部分が待場に入り、向かいの山から放たれた複数のGPS付猟犬が、勢子に誘導されながら射手をめがけて獲物を追い込んでゆきます。

 冬期とはいえ積雪はほとんどなく、日差しが当たればほのかに暖かいほどで、ひたすら待場に潜んでいてもそれほど負担になりません。林内や獣道のすぐ脇を待場とすれば、積雪は無くても下草はそれほど多くなく獲物の姿をきちんと見分けることができます。
 暖かいことで生じる課題はあまりありませんが、獲物にダニが多く早い時期からハエが発生しやすいことは若干のデメリットでしょうか。また、暖かいと肉が悪くなり易く軒下でのエージングはできません。多頭数獲れた日でも解体まで当日中に全て終わらせなければなりません。その後各自で血抜きやエージングをすることになります。

役目を果たして休息する猟犬たち

 このように、同じイノシシ・シカ猟とはいっても地域によって環境に応じた様々な猟が行われていました。またどちらの地域でも、共に出猟する仲間同士の信頼関係が大切にされていたり、地元の農家と関わりながら猟が行われているといった共通点も知ることができました。これからも地元の要望に応えて野生動物の個体数を調節しつつスポーツとしても楽しむという、人と野生動物との上手な共生関係を実現する役割を期待したいと思います。

(*冬猟は実益を兼ねたスポーツであり、有害駆除ではありません。)