カテゴリー別アーカイブ: 02感染症・衛生管理

2

お肉はきちんと火を通してから!

今年も狩猟の季節がやってきました。
自分で獲ったシカやイノシシ、知り合いのハンターさんからもらったカモなど、なにかと野生鳥獣肉を食べる機会が増えるシーズンかなと思います。

ところで、みなさんは野生鳥獣肉をどのようにして食べていますか?
まさか「生で!」なんてことはないですよね…?

■ 生食、ダメ絶対(新鮮でもダメ)
生食がなぜダメなのか、それは食中毒の危険があるからです。
鳥獣肉の刺身や、血もしたたるレアステーキなんて、もってのほか。
「シカ肉のたたき」を出すレストランもあるようですが、この「たたき」、シカのローストのことではなくて、鰹のたたきと同じように表面をあぶっただけのものを指しているとしたら、中心部まで火が通っていないのでこれもアウトです。
また、「新鮮だったら生でも大丈夫」も大きな間違いです。
すべての野生鳥獣が食中毒の原因になるウイルスや寄生虫などに感染しているわけではありませんが、感染している場合は当然死ぬ前から感染しているわけですから、捕獲直後のピカピカの肉だろうがなんだろうが関係ありません。そして、病原体に感染しているかどうか、見た目で分かることは少ないので、新鮮でおいしそうなお肉だからといって生食OKと判断してはいけません。

■ どんな食中毒が心配なの?
主なものとして2つほど紹介します。

<E型肝炎>

E型肝炎ウイルスに感染することで発症する急性肝炎(まれに劇症化する)です。イノシシやシカ、豚などの肉や内臓を生で食べることによって感染した事例があります。感染しても症状が出ないことが多いとされていますが、平均6週間の潜伏期間があるので、肉を生で食べた直後に症状が出ないからといって油断はできません。
○症状
発熱や食欲不振、嘔吐、肝機能の悪化、黄疸などが1~2週間続く
まれに劇症肝炎(急性肝不全)による死亡事例あり
妊婦は劇症化しやすく、死亡率は20%になることがある
○感染事例①
イノシシのレバーを生で食べた2名が発症、うち1名死亡(2003年)
○感染事例②
シカ肉を刺身で食べた4名が発症(2004年)
○予防
しっかり加熱

<腸管出血性大腸菌感染症>

腸管出血性大腸菌が原因の感染症です。無症状の場合もありますが、4~8日の潜伏期を経て、さまざまな症状が出ます。
○症状
下痢、腹痛、血便など
溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症などの重篤な合併症が患者の6〜7%で発生
HUS を発症した患者の致死率は1〜5%
○感染事例
冷凍保存していたシカ肉を刺身で食べた4名が発症(1997年)
○予防
しっかり加熱

生の肉もしくは加熱不十分な肉を食べることによって起こる食中毒は、もちろんこの限りではありません。もっと知りたい方は内閣府食品安全委員会が出しているファクトシートなどをご覧ください。

■ 「しっかり加熱」とは…?
それでは、どのくらい熱をかければ良いのでしょうか?
厚生労働省は野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)の中で、

肉の中心部の温度が75℃、1分間以上

または「これと同等以上の加熱」を推奨しています。
「同等以上」の加熱条件としては

肉の中心部の温度が63℃、30分間以上

があります(厚生労働省「豚の食肉の基準に関するQ&Aについて」より)。

「この加熱条件をクリアする料理法が分からない…」という方もいるかと思います。でも心配ご無用、信州ジビエ研究会やTWIN(北海道の女性ハンターの会)などがレシピを紹介しています!参考にしてみてください。

・信州ジビエ研究会レシピ
・TWIN レシピ

■ さいごに
・「野生鳥獣肉だから」じゃない
 ここまでいろいろ書いてきましたが、この記事を読んで、野生鳥獣肉が特別怖いものだと誤解しないでいただきたいなと思います。某焼き肉店でユッケを食べた方5名が亡くなった事件(2011年)は記憶に新しいかと思います。あれはまさに上で紹介した「腸管出血性大腸菌」による食中毒事件でした。「野生鳥獣肉だから危険」なのではなくて家畜肉であれ野生鳥獣肉であれ、「生食だから危険」「適切な処理をしないから危険」なのです。
 安全に食べる方法を知ることが大事です。きちんと加熱!しっかり覚えてくださいね。

・「これまで大丈夫だった」「オレは大丈夫」は大丈夫じゃない
 「これまでずっと生で食べてきたけどオレは元気だ」という方もいっぱいいらっしゃるでしょう。「生で食べるのが好きだから病気になっても構わん」という人もいるかもしれません。個人の自由と言ってしまえばそれまでです。でもちょっとだけ、大きな目で見てみませんか。
 2013年度における農作物被害額はシカで75億円、イノシシで55億円にものぼります。そして、同年度における駆除数はシカ約30万頭、イノシシ約34万頭です。これらのうち、食肉として有効活用されているのはごくわずかです。このままでは、野生鳥獣による直接的な経済被害のほか、駆除した鳥獣の処理にも労力やお金が費やされていくばっかりです。しかし、もし駆除された動物が食肉として流通するようになれば、野生鳥獣は地域にとってお金になり、被害をもたらすだけのものではなくなります。野生鳥獣肉を市場に流通させるには需要と供給のバランスや処理施設の問題などいろいろなハードルがあり、簡単に進むものではありませんが、それでも近年は各地で徐々に有効活用の動きが見られます。そんな中、ここでひとたび野生鳥獣肉による重大な食中毒事件や死亡事件が起きたとしたら、この流れに水をさすことになりかねません。
 また、近年はジビエブームやジビエによる地域おこしなどを通じて、一般の方々の間でも野生鳥獣肉(ジビエ)に対する興味は高まってきているように思います。野生鳥獣肉が人の口に入る機会もこれからますます広く、多くなっていくでしょう。加熱調理が必要であることを正しく伝えなければ、防げる食中毒も防げなくなってしまいます。
「自分は大丈夫」ではなくて、少し大きな目で見て、安全に野生鳥獣肉を楽しんでいただければと思います。

201612%e6%96%99%e7%90%86%e5%86%99%e7%9c%9f
(左から)シカシチュー、クマハンバーグ、イノシシチャンプルー

*そのほかの参考資料
厚生労働省「食肉を解するE型肝炎ウイルス感染事例について(E型肝炎Q&A)」
北海道立衛生研究所「E型肝炎ウイルスはどこから?」
日獣会誌69(2016)「野生動物の食用利用と人獣共通感染症」

本州でも「エキノコックス」?

エキノコックスという寄生虫は包虫とも呼ばれ、日本では主に北海道でみられる多包条虫が知られています。北海道以外の方々にとっては、「エキノコックス」という言葉は馴染みが薄いかもしれません。北海道では主にキツネやイヌに感染し、糞便に排出された虫卵が草原や水などを汚染します。人は虫卵に汚染された水や食物の飲食によって感染しますが、虫卵が体内で孵化して包虫(幼虫)が肝臓で増殖した後、肝腫大、黄疸、肝機能障害などの症状として表れるには数年から20年はかかり、病巣を手術で摘出しなければならないなど、感染すると非常にやっかいな寄生虫です。ちなみに、本来の宿主であるキツネやイヌは、通常は感染しても症状を示すことはありません。

 そんなエキノコックスが本州でも発見されたのです。2005年に埼玉県で、2014年4月に愛知県阿久比町でそれぞれ捕獲された野犬から、エキノコックスが検出されました。どちらも遺伝子検査の結果、塩基配列は北海道の多包条虫のものとすべて一致しました。そのため、北海道から何らかのかたちでやってきたイヌによるものではないかと考えられています。埼玉県ではその後の調査においてこれまで検出の報告はなく、愛知県では現在野犬におけるエキノコックス感染状況の調査が実施されています。

 エキノコックスへの対策としては、
・手をよく洗う
・生水は飲まない
・山菜や果物などはよく洗い加熱する

 などの衛生的な対策が基本ですが、
・犬の放し飼いをしない
・野生動物との不用意な接触を避ける(家の周辺で動物の糞を見つけたら速やかに片付ける、家の床下や壊れた物置などのキツネが住み着きそうな場所に注意する)

などの対策をしっかり行うことで虫卵を経口摂取する可能性を減らしていくことが重要です。

 この阿久比町周辺は、新見南吉の「ごんぎつね」の舞台とされています。阿久比町のある知多半島はかつてキツネの生息地でしたが、昭和30年代に姿を消したといわれていました。近年キツネが約半世紀ぶりに確認されたこともあり、「ごんぎつねがくらしていた里山」として観光や環境整備に力をいれているさなかの出来事でした。現時点では当地において観光に打撃を与えるような大きな騒動とはなってはおらず、人間への感染者も報告されていませんが、地域における観光などの取り組みと感染症からの安全を両立させるには、このブログでも繰り返し述べられている「人間と野生動物との間の適正な距離感」が必要なのだと感じます。

201609_%e3%82%a8%e3%82%ad%e3%83%8e%e3%82%b3%e3%83%83%e3%82%af%e3%82%b91 201609_%e3%82%a8%e3%82%ad%e3%83%8e%e3%82%b3%e3%83%83%e3%82%af%e3%82%b92
写真:阿久比町植大の権現山にて、「ごん」の名前の由来とも言われています。
ここでもキツネが確認されています。

身近な野生動物の感染症:疥癬(かいせん)

 狩猟や有害鳥獣捕獲の現場は、感染症にかかった野生動物に遭遇する機会でもあります。今回は目にしやすい感染症の1つである、疥癬についてご紹介いたします。

●動物における疥癬の病原体・症状・感染状況について

疥癬に感染したイノシシ(右下はヒゼンダニ)
疥癬に感染したイノシシ(右下はヒゼンダニ)
 疥癬は、ヒゼンダニ類のダニが寄生することで発症する皮膚病です。このダニは、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)などを媒介するマダニとは異なり、肉眼でほとんど見えないサイズの小さなダニです。野生動物が感染すると、掻痒をともなう皮膚の異常、脱水と衰弱、細菌の二次感染などにより、死に至ることがあります。野生動物間では、社会行動の中での接触、餌場や巣穴の共同利用、食物連鎖などにより感染しているようです。イヌとタヌキの間など、一部のペット・家畜と野生動物間でも感染していることも確認されています。動物由来の疥癬はヒトにも感染するものの、症状は軽症かつ一時的で、2週間ほど続いたのちに治まるとされています(ヒトにはヒト由来の疥癬があり、そちらは別で、感染が継続します)。
 
●疥癬に感染した動物の取扱い、消毒など
ヒトでの症状は軽いとはいえ、疥癬に感染した動物に触れる場合は、長袖・手袋着用、作業後に着替えるなど、ダニに触れない・居着かせない対策をすべきです。また、ダニは環境中で数日間は生きていられるようです。ダニにはエタノール消毒などが効きにくく、捕獲に使用した器具や衣服には熱湯消毒の方が効果的です。ヒトが動物由来疥癬に感染する経路としては、ペットからの感染も問題となっています。ペットや猟犬において疥癬の感染が疑われる場合は、獣医のもとで診察を受けるべきです。

●日本の野生動物における疥癬
日本では、主に食肉目の動物を中心とする流行が1980年代から報告されてきました。これまでに、タヌキ・キツネ・アナグマ・テン・ハクビシン・アライグマ・イノシシ・ツキノワグマ・カモシカなどの動物で感染が報告されています。タヌキやキツネにおける流行では、重症・死亡個体が目につきやすく、個体数の減少による絶滅を心配する声があがっていました。しかし、いまのところ個体群が絶滅した地域は報告されておらず、個体数の減少は一時的なものと考えられています。むしろ自然の中における疥癬は、「増えすぎた個体数を調整する」役割をしているとも考えられています。保全生物学的には、希少動物や小さな孤立個体群でもない限り、疥癬に感染した動物を保護する必要性はないと考えられます。
 
 マダニが媒介する病気(重症熱性血小板減少症候群とダニ参照)とは異なり、疥癬はヒトが感染しても致命的な症状に至らない病気です。しかし、自身やペット・猟犬の健康を守る上でも、ありふれた病気に過度な恐怖心を感じないためにも、きちんと知識をもってこの病気に接するべきです。身近な野生動物の感染症との付き合い方も、考えてみませんか。

重症熱性血小板減少症候群とダニ

 今回は、感染症の中でも最近特に注目されている、重症熱性血小板減少症候群(以下、SFTS)について話題提供致します。

 今回テーマに取り上げた理由は2つあります。
 1つ目の理由は、正しい情報を共有する場が必要と考えるからです。SFTSは、「殺人ダニ」というセンセーショナルなキーワードでマスメディアに取り上げられ、漠然と恐ろしいイメージが先行しています。イメージで恐れるのではなく、SFTSの実態をしっかり知って予防法等を学ぶことが大切です。

 もう1つの理由は、SFTSへの感染機会が多いのが、野生動物に直接的に関わる活動をする人々だからです。野生動物には、SFTSを媒介するマダニが多く寄生しています。野生動物に直接触る人は、これまでは研究者や狩猟者などごく一部に限られていました。しかしこれからは、鳥獣法の改正に伴う認定事業者制度の開始や、アライグマ捕獲を主とした捕獲従事者制度の広がりにより、様々な人々が仕事として関わるようになります。専門的知識や経験知が十分でない新たな従事者に対して、安全管理を第一とし、SFTSなど感染症の情報を知る場を積極的に設けていくことが重要であると考えます。

 さて、前置きが長くなりましたが、SFTSについてです。今回の最新情報は、国立感染症研究所から発信されている情報を引用します。詳細については以下URL等(href=”http://www.nih.go.jp/niid/ja/sfts/2287-ent/3964-madanitaisaku.html)をご覧下さい。

オオトゲチマダニ
オオトゲチマダニ

●SFTSの病原体・主な感染経路
 SFTSの病原体は、マダニ自身ではなくマダニの体内にいるSFTSウイルスです。主な感染経路は、SFTSウイルスを保有したマダニの刺咬です。なお、マダニは家ダニとは異なる種類ですし、全てのマダニがSFTSウイルスを保有しているわけではありません。

●SFTS感染時の症状・治療法・致死率
 SFTSの潜伏期間は6~14日間で、発症すると発熱、頭痛、筋肉痛、消化器症状等がおこります。血液の検査をすると血小板や白血球の減少が見られます。現在の治療法としては対症療法しかなく、致死率は10~30%といわれています。

●SFTSの予防法
 マダニの吸血を防ぐことです。過去のSFTS感染者は、3~12月に確認されており、最も多かったのは5月でした。これはマダニが活発に活動する時期に関係します。マダニは野生動物が生息している環境はもちろん、田畑や民家の裏庭などにも生息しています。誰しもがマダニに刺される可能性があることを認識し、マダニのチェックをすることが重要です。もしも刺されていた場合は、むやみに取らずに医療機関にて取ってもらい、その後発熱などの症状の有無を確認しましょう。