シンポジウム
「2014年ツキノワグマ大量出没の総括と展望
~クマによる人身事故0をめざして~」参加報告

201506_JBA東京シンポ(中川)要旨集表紙 5月9日東京都渋谷区東京ウィメンズプラザにおいて、日本クマネットワーク(JBN)とWWFジャパンの合同シンポジウム2014年ツキノワグマ大量出没の総括と展望~クマによる人身事故0をめざして~が開催されました。少し日数が空いてしまいましたが、JBN会員として本シンポジウムに参加しましたので内容を簡単に報告します。

 まず、環境省発表によりますと1月暫定値ですが、2014年のツキノワグマ捕獲数は3,527頭、うち捕殺数は3,369頭、人身被害人数は117人であることから、昨年度は2006年に次ぎ2010年とほぼ同じ規模での全国的な大量出没が起こったといえます。このような状況を受け、本シンポでは第1部で2014年度における各地の大量出没状況、第2部で過去の大量出没年を含めての総括、第3部で人身事故ゼロを目指して今後に向けての保護管理の展望を各演者が発表しました。
 第1部では、長野県、神奈川県、栃木県について状況報告が行われました。どの県でも2014年度は多くの出没があり、その対応に苦慮していることが伺えました。特に、長野県は記録上最大の捕殺数と人身事故を記録しました。2014年度は長年クマを誘引する原因を放置してきた地域で人身事故が多い印象があるとのことでした。人身事故の発生が多い地域に限らず、狭い範囲で出没が集中するような地域は、クマが出没するなんらかの要因があると考えられるので、きめ細かい情報収集と分析を行うことでその要因を明らかにして、他地域での被害防除へ活用していくことが重要だと思われます。
 第2部では、そもそもなぜ大量出没が起きるのかそのメカニズムについての報告などがされました。大量出没の背景(間接的要因)としては、分布域が拡大し人間の主要な生活圏に接近していることがあります。そのような状況の中、秋季の餌である堅果類の不足が引き金(直接的要因)として作用しています。ただし、大量出没年では堅果類の結実前の時期からクマの行動が変化することが報告されており、この原因についてはまだ明らかになっていないとのことです。いずれにせよ、人間とクマの生活圏が近づいてきている以上、今後も大量出没年は繰り返されることが予想されます。
 第3部では、兵庫県、島根県のクマの保護管理の体制、対策に関する報告がありました。両県とも県職員がクマや野生動物全般の専門員、指導員を担っており、誤捕獲個体の放獣や被害対策など地域においてきめ細やかな対応をしている保護管理の先進県です。このような体制で足元を固めつつ、増加していると推定されるクマの取扱いを今後どうするかが課題であることが示されました。

 現在のようにクマの分布域が拡大し、また生息数が増加していると言われている状況では、今後も人とクマとの遭遇は増加すると考えられるため、本シンポジウムのサブタイトルにもなっている「人身事故ゼロ」というのは、遠い目標にみえます。ですが、人身事故を少しでも減らさない限り、人のクマに対する許容量はどんどん小さくなり、人とクマが共存する未来はやってこないと感じます。人身事故を減らすため、JBNでは2011年に人身事故情報のとりまとめに関する報告書を発行し、過去の全国における人身事故の状況等のとりまとめを行っています。今後人身事故を減らすためには、このような活動を継続し一般市民にクマの生息状況や事故状況に関する情報を発信し普及啓発を図ることが必要だと考えます。また、事故事例を詳細に分析し、例えば事故におけるクマ鈴やラジオの携帯率などから実際にどのような装備がどの程度役に立つのかをデータとして示すことで、クマとの危険な遭遇を防ぐためのより実効性が高く本当に役立つ情報を発信していくことがクマに関わる人たちに求められていることだと思います。