エキノコックスという寄生虫は包虫とも呼ばれ、日本では主に北海道でみられる多包条虫が知られています。北海道以外の方々にとっては、「エキノコックス」という言葉は馴染みが薄いかもしれません。北海道では主にキツネやイヌに感染し、糞便に排出された虫卵が草原や水などを汚染します。人は虫卵に汚染された水や食物の飲食によって感染しますが、虫卵が体内で孵化して包虫(幼虫)が肝臓で増殖した後、肝腫大、黄疸、肝機能障害などの症状として表れるには数年から20年はかかり、病巣を手術で摘出しなければならないなど、感染すると非常にやっかいな寄生虫です。ちなみに、本来の宿主であるキツネやイヌは、通常は感染しても症状を示すことはありません。
そんなエキノコックスが本州でも発見されたのです。2005年に埼玉県で、2014年4月に愛知県阿久比町でそれぞれ捕獲された野犬から、エキノコックスが検出されました。どちらも遺伝子検査の結果、塩基配列は北海道の多包条虫のものとすべて一致しました。そのため、北海道から何らかのかたちでやってきたイヌによるものではないかと考えられています。埼玉県ではその後の調査においてこれまで検出の報告はなく、愛知県では現在野犬におけるエキノコックス感染状況の調査が実施されています。
エキノコックスへの対策としては、
・手をよく洗う
・生水は飲まない
・山菜や果物などはよく洗い加熱する
などの衛生的な対策が基本ですが、
・犬の放し飼いをしない
・野生動物との不用意な接触を避ける(家の周辺で動物の糞を見つけたら速やかに片付ける、家の床下や壊れた物置などのキツネが住み着きそうな場所に注意する)
などの対策をしっかり行うことで虫卵を経口摂取する可能性を減らしていくことが重要です。
この阿久比町周辺は、新見南吉の「ごんぎつね」の舞台とされています。阿久比町のある知多半島はかつてキツネの生息地でしたが、昭和30年代に姿を消したといわれていました。近年キツネが約半世紀ぶりに確認されたこともあり、「ごんぎつねがくらしていた里山」として観光や環境整備に力をいれているさなかの出来事でした。現時点では当地において観光に打撃を与えるような大きな騒動とはなってはおらず、人間への感染者も報告されていませんが、地域における観光などの取り組みと感染症からの安全を両立させるには、このブログでも繰り返し述べられている「人間と野生動物との間の適正な距離感」が必要なのだと感じます。
写真:阿久比町植大の権現山にて、「ごん」の名前の由来とも言われています。
ここでもキツネが確認されています。